ヤマハYUA クイックリターンアクションをバットスプリング付に改造
ヤマハアップライトピアノYUA。
発売当初、ヤマハUXシリーズの黒色の最高機種でした。この機種には「クイックリターンアクション」と呼ばれる、独特な板バネがついた方式の物が採用され発売されました。
後から聞いたお話ですが、開発当初このアクションは、ハンマーの連打性を上げられて、素早くハンマーを元に戻せる方式を考えて採用したそうです。新品当初はそれが有効だったのかも知れません。しかし、日本は高温多湿の国です。冬場は過度な暖房は別として乾燥しているので、アクションは特に問題は出にくいのですが、夏場の高温多湿、この多湿が毎年繰り返されて、バットスプリングがついていないこのアクションでは、ハンマーにスティック(湿気でフレンジと呼ばれる部品の関節の動きが悪くなる現象)が出やすくなってしまいました。結果、クイックに戻るどころかハンマーの戻りはスプリングもないので動きが鈍くなり、返って連打の効かないアクションになってしまいました。のちに打鍵時にコツコツ音が出やすいのも、この機種ならではの現象です。その結果、この「クイックリターンアクション」はこの機種限りで、一般的なバットスプリング付きのノーマルアクションに戻りました。当時これを採用していたのは、YUA、W201、W202の3機種です。いづれもヤマハの最高機種でしたが、残念な結果になってしまいました。
とは言う物の、現代にはまだまだ使用できるYUAはあります。今回YUAを入手したのをきっかけに、技術者的にはこの最高機種をダメなままにしておく事は非常にもったいない思いでした。ノーマルアクションに何とか戻せれば、最高機種のピアノが本当の最高機種に生まれ変わります。何とかしようと試行錯誤の上、オリジナルで修理工具を作り、バットスプリング付きのアクションに戻しました。写真はその工程をいくつかピックアップしたものです。
作業工程としては、アクションからクイックリターンの板バネを外します。ハンマーアッセンブリーを外し、古いバットフレンジを取りはずします。古いブライドルテープも切り取ります。板バネがあたる所についているスキンをアセトンを付けて剥がします。結構頑固で剥がしにくかったです。次に、バットスプリングを取り付ける為の縦溝をトリマーを使い彫りました。深さも慎重に、まっすぐに彫らなければなりません。これをするのに、ハンマーをあてがう治具を作りました。次に横からボール盤でバットスプリングピンコードを取り付ける為の穴をあけます。ここまでくればあとはコードを取り付け、フレンジコード付きの新品のバットフレンジ、ブライドルテープを取り付け、アクションに組み込み完成です。ダンパーストップレールは、消音ユニットを取り付ける際に外したものをたくさん取ってありましたので、すんなり解決。これでノーマルアクションに戻せました。
あとは本体に組み立て、整調、調律、整音を行って完成。店頭に陳列致します。
前回のブログに書いた、グランフィールを考案された藤井ピアノさんは、このクイックリターンアクションの逆転の発想から考えたアイテムだそうです。